06
01 キムチの起源
02 キムチの栄養と乳酸発酵
03 ニンニクの原産地と語源
04 唐辛子伝来の歴史
05 ショウガとウコン
06 稲の原産地と日本
07 焼きたてパン信仰
08 エゴマはゴマではありません
09 箸の文化は日本の文化です
10 焼き肉文化と韓国の肉食の歴史
11 日本の食文化・刺身の起源
12 韓国の冷麺スープを考える
13 ジャガイモと馬鈴薯
14 メンマの由来と味付けメンマ
15 宵越しのお茶は体に悪いのか
16 お粥は消化吸収が良くない
17 ごぼうにアクはありません
18 蕎麦の原産地と日本への伝来
19 もつ鍋のコラーゲン
20 砂糖の伝来
21 ドングリは食用になるのか
22 サツマイモの伝来とアグー豚
23 蒟蒻(こんにゃく)の伝来
24 日本の肉食禁止の内実
25 パンとご飯 どちらが痩せる?
26 辛いものは脳に悪いか
27 日本の割り箸の種類
28 冷麺は寒い冬の食べ物だった
29 中国がキムチの起源を主張
30 世界の食用油 食用油の種類
過呼吸の対処と改善(PDF)
実戦操体法研究会
So What
稲の原産地と日本 稲の伝来
米はイネ科の1年草で今では世界各地で栽培が行われています。原産地は中国の雲南省から、ラオス、ミャンマーと国境を接する亜熱帯気候のかなり広範囲な地域と言われ、その栽培は10000年以上も前に遡れるようで、その起源は中国の長江(揚子江)流域とされ、畑作中心の黄河文明に対し稲作中心で、ジャポニカ種が栽培されていました。
稲は短粒のジャポニカ種と、長粒のインディカ種に大きく分けられ、ジャポニカ種はネバリがあり、日本や韓国で主に食べられ、インディカ種は他の国々で主に食べられています。
日本の米は世界でその美味しさが認められた世界最高水準の農産品ですが、カレーには不向きですし、チャーハンにしても余り美味しくはありません。それぞれに適した料理法がありそれが文化なのです。
もともと自生しなかった渡来の稲を気候風土に適したものへと、改良に改良を加え作り上げてきたご先祖様には感謝しかありません。

稲の原産地は中国の雲南省から、ラオス、ミャンマーと国境を接する亜熱帯気候の広い地域
稲の原産地は中国の雲南省から、ラオス、ミャンマーと国境を接する亜熱帯気候の広い地域
日本での稲作開始時期の解明も徐々に進んでいるようで、今までは朝鮮半島からの伝来説が有力でしたが、最近の遺伝子工学的な取り組みが決定的な成果をあげ、朝鮮半島経由の可能性はまず無くなったと言えます。
最新の年代測定法(放射性炭素年代測定)での研究では、稲作開始時期は陸稲が6700年、水稲が3200年程度前まで遡れることが判明しています。これは朝鮮半島の水稲栽培が1500年程度前までしか遡れないことと比較すと、日本の稲作開始時期が遙かに古いことの証です。
また、朝鮮半島の稲は九州北部と栽培法が酷似し、遺伝子学的には日本の古代米に中国から伝来した稲の遺伝子が交雑したものと考えられ、水稲は日本から朝鮮半島へ、陸稲は中国経由で朝鮮半島へ伝わったことをこれらの研究が示しています。中国の研究機関でも同じ結論が出ているそうです。
東アジアのジャポニカ米のDNAのSSR東アジアのジャポニカ米のDNAのSSR
東アジアのジャポニカ米のDNAのSSR
DNA:DeoxyriboNucleic Aacid の略で、遺伝情報の物質的な実体で、細胞内の核に多く含まれている分子。 デオキシリボ核酸のこと
SSR:Ssimple Sequence Repeat の略で,1 塩基から 数塩基の長さのDNAが繰り返している領域のこと
 姉妹サイ"So What" 2014/10/02 からの転載です。タイトルは「稲の原産地と日本への伝来」です。東アジアのジャポニカ米のDNAのSSRに関してもう少し詳しく書いています。
日本人にとっては米は世界の三大穀物(小麦・米・トウモロコシ)の中でも、特に重要な位置を占めます。遥か縄文の時代から日本人は米を食し、その文化を作りあげてきました。
いくら食生活が変化して西洋化したと言っても、炊き立てのアツアツのご飯を嫌いだと言う人には、未だ遭ったことがありません。それが日本人なのです。

左が昔からの釜 右が世界初の電気炊飯器
美味しいご飯を炊く専用の「釜」は、昔はどこの家庭にもあったものですが、ガスから電気へと炊飯道具が変化するにつれ、一般家庭から専用の炊飯釜は消え、今では一部の業界が使うのみになってしまったようです。
面白いことに、ご飯を美味しく炊く専用の釜があるのは日本とタイの2カ国だけです。稲作発祥の地である中国にも、また韓国(もともと米食の習慣は無かったようです)にも専用の釜はありません。
最近は日本の炊飯器の進出が目覚ましく、世界各地で大いに利用されています。これも米を愛して続けてきた日本人だからこそ成し得た食文化への貢献なのです。
ちなみに日本の米食文化の代表とも言える鮨(今の寿司ではありません)は、タイのプラーソムがそのルーツだそうです。
世界最古の栽培稲のもみ殻が見つかった

 2005年1月22日に中国の国営通信「新華社」は、中国の長江下流の新石器時代の上山遺跡(浙江省浦江)から、※約1万年前の世界最古の栽培稲のもみ殻が見つかったと伝えた。
新華社電によると、これまで最古の栽培稲は長江中流の遺跡などで見つかった8000年前のものとされており、稲作の起源はさらに約2000年さかのぼることになる。
同省の考古学研究所などが調査した結果、上山遺跡で約1万年前の土器とともに大量の稲のもみ殻が出土。もみ殻を調べたところ,野生種より長さが短く、幅は逆に太い栽培稲の特徴が確認できたという。
※上山遺跡で発見された欠損のない炭化米(1粒):長さ 3.732mm、幅 1.667mm、厚 1.723mm、縦横比 2.239 、馴化初級段階の原始的な栽培稲に属する 
玄米食あれこれ 玄米の酵素阻害物質

米穀安定供給確保支援機構 米の構造はどうなってるの?(PDF)
玄米は稲の一番外側の米の籾殻(もみがら)を除去したもので、果皮、種皮、糠粉層、胚芽、胚乳の5つの部分からできあがっています。
この「玄米」から糠(ぬか)を取り除き、胚芽を80%以上残したものが胚芽精米で、更にここから糠と胚芽を完全に取ったものが精白米です。
最近はなぜこれほど玄米が持て囃されているいるのか不思議です。ネット上には「健康に良い」を謳い文句にしたサイトが多数あります。「玄米」が古くから日本でごく普通に食べられていたかのような記述も多く見られます。その多くが何らかの形で「玄米」を販売していたりもします。果たして大騒ぎされるほど「玄米」は体に良いのかを少し考えてみたいと思います。
ビール酵母の顕微鏡写真
ビール酵母の顕微鏡写真
植物の種子は子孫繁栄のために、硬い表皮を持ち、同時に酵素阻害物質(酵素分子と結合しその活性を低下または消失させる物質)を含むことで、そのまま食べても消化吸収されてしまわないように進化してきました。
例え、鳥類等に食べられても、消化されずに糞と共に体外に排出され、効率的に広範囲へ己をばら撒く(種子散布)ことを目的としているからです。 
鳥や動物による種子散布に関しては「種子散布 助けあいの進化論1・2」上田恵介編・1999年・築地書館」がお勧めです。本の内容紹介
玄米にも酵素阻害物質があり、発芽を促すために温水(ぬるま湯)に浸けておくことで、その80%程度が消滅し(20%程度は残るらしい…)、代わりに成長に必要な成分が活性化します。
玄米にも硬い表皮があり、フィチン酸が含まれるためにミネラルの吸収が阻害されます。また玄米は食物繊維が豊富なため、一度に大量に食べると本来体が吸収すべき栄養素まで絡め取って体外に排出させてしまうこんにゃくのような働きをします。
現代人は恒常的(慢性的)に食物繊維が不足する傾向にあり、食物繊維を多く含む食品の摂取は健康維持のためには欠くことのできない因子と言えます。
然しながら、ミネラル類が不足すると悪化するような病気をお持っている、歯が悪く咀嚼がうまくい出来ない、胃腸障害があり消化不良に陥り易い、等々の方は事前に医師に相談してから摂取することを強くお勧めします。何も調べずに常食すると症状を悪化させたり他の病気を併発する恐れもあります

最近の研究では、フィチン酸によるミネラルの排出作用は、心配する程のものでないとの説もあるらしいのですが、エビデンス(科学的根拠)が分からない(私がですが…)ので何とも言えません。
また、フィチン酸がミネラルの吸収を阻害しても、その状態が続くと「体内貯蔵量が減り、逆に吸収率は上昇する」とも言われています。
健常者が通常の食事をしていれば、ミネラル不足に陥るようなことはありませんので、心配することはありませんが、微量でも不足すると健康状態に大きく左右しますので、常に注意を心掛けることだけは忘れてはいけません。
水田は国土を守り日本人の食を支えます

江戸わずらい
今では信じられないような話ですが、大正の頃までは日本全国において多発した「脚気」で、毎年2万人以上の人が命を落としていました。
脚気は食生活が豊かになった江戸時代後期から明治時代にかけて激増した病気で、昭和になってビタミン B1が発症に関与していることが解明されてからは激減しています。
江戸時代にはそこで暮らす者は、武士から町人に至るまで白米ばかりを食する習慣が広がり、極端にビタミン、ミネラルの不足に陥ってしまいました。
地方ではまだまだ玄米食が中心の頃だったのですが、江戸に滞在した大名や武士には、体調が悪くなり寝込んでしまう者が続発しました。この症状も故郷に戻ると何故か嘘のように治ってしまったようで、この病のことを当時の人たちは「江戸わずらい」と呼んでいました。
脚気による衝心(きょしん・心不全)で亡くなった徳川三代将軍の家光と、 「かっけ治療院」の看板
気による衝心(きょしん・心不全)で亡くなった<span jscontroller="JHnpme" class="pjBG2e" data-cid="f3e69879-df18-4db3-a847-a9901d38ff96" jsaction="rcuQ6b:npT2md"><span class="UV3uM" style="white-space: nowrap;"></span></span>徳川三代将軍の家光と、 「かっけ治療院」の看板
肉類を摂取することが極々稀な時代で、栄養学的には偏った食事内容を続けた結果だったようです。そして何より残念なことは、玄米を食べさえすれば「江戸わずらい」に罹らないことを明治の後期に至るまで誰も気付かなかったことです。
江戸のアサリ売りと納豆売り 守貞漫稿
江戸のアサリ売り(左)と
納豆売り(当初は納豆汁用に刻んだ納豆を販売していたがその後は豆のままでの販売に変更された)
また、江戸の朝は「浅利売り」と「納豆売り」の声で始まるのが当たり前で、当時でもビタミンB1が豊富なアサリや納豆のような食品はいくらでも食べられましたし、新鮮な魚類を商う者も数多くいました。
しかし、その恩恵を受けられた江戸の人たちはどれ程いたでしょうか。先立つものが必要なのはいつの世も同じです。宵越しの銭を持たない(持てない?)江戸っ子には特に難しかったのかもしれません。
卯の花月 歌川国貞(クリックで拡大画像を表示)と(下)江戸の魚売り 守貞漫稿
卯の花月 歌川国貞
江戸の魚売り 守貞漫稿
とにかく白米を多量に食べ、副菜が極端に少なく濃い味付け、そのような食事では得られるビタミン類は微々たるものです。健康を害し脚気を患っても何ら不思議ではありません。また、それすらも毎日欠かさず摂れていたかどうかとなると…
帝国海軍と脚気
甲鉄艦扶桑と帝国海軍史要
ビタミンB1が発見されていなかった明治時代の日本軍では、脚気による死者が戦死者数を上回り大きな問題となっています。
当時海軍における脚気患者は、全海軍総疾患者の1/3余にもなり、明治14年の東京および横須賀の両海軍病院の入院患者の3/4に及んだ。(近世帝国海軍史要 1989)
明治15年に朝鮮の首都漢城(ソウル)で起きた※壬午事変(1882年)を受け、海軍艦艇を派遣した際には、差し向けた海軍艦艇4隻(金剛、比叡、日進、清輝)中、40日間で金剛・比叡の乗組員の1/3が脚気に罹患し、品川沖で待機していたの扶桑では、驚くことに乗組員の3/5が発病して倒れています。
『海軍脚気予防事歴』に「若シ事有ルモ 不戦シテ先ツ斃ルゝノミナラス 機関運転ニ差閊(さしつかえ) 遂ニ座シテ敵ノ攻撃ヲ受クルヨリ外無ト申スモ敢テ過言ニ非ス」とあります。
※壬午軍乱または壬午事変興宣大院君らの煽動を受けて、朝鮮の首府漢城(現在のソウル)で起こった閔氏政権および日本に対する大規模な朝鮮人兵士の反乱
これらの悲劇は何も海軍に限って発生していたわけではなく、陸軍に於いても同様だったようです。また、当時の海軍では士官を除き、兵士は給与の中から自前で食事を贖う必要があり、貧しい暮らしの者は食費を削って貯蓄にまわす傾向があり、この悲劇に拍車をかけていたようです。その良い証拠として将校に脚気で倒れる者は出ていません。明らかに食事内容にの違いです。
海軍脚気累年表 海軍脚気予防事歴
海軍脚気累年表 海軍脚気予防事歴 (海軍衛生中央会議/1890)
世界大戦直後の一時期を除き、日本人は主に精白米を主食とし、そば、うどん、パン等、あらゆるものを何不自由なく食べ、副菜も豊富で、「脚気」などは既に根絶されたかのようでしたが、若い人達を中心に脚気と思える症状が最近は多発しているといいます。
既に克服されたと思われていた脚気が再び復活の兆しを示しているそうで、これを白米の常食に結びつける短絡した思考回路の人々もいますが、ただ単にインスタント食品や、糖質の多量摂取、偏食による ビタミンB1の摂取量不足に他なりません。
江戸時代ではあるまいし白米の常食がその原因とはなり得ません。ビタミン、ミネラルの豊富な副菜を摂取していれば、脚気の発生はまず考えられません。如何に健康に良いものを選び、正しく摂取するかは各々の「自己責任」です。
玄米の消化と消化と吸収 栄養素の吸収
便秘の解消や肥満の防止、大腸癌を初めとする癌や高脂血症の予防、疲労回復効果や脚気の予防、老化防止、冷え性の緩和から美肌効果、等々と様々な効果効能が喧伝されています。
下の表は玄米と精白米それぞれに含まれる100gあたりの栄養素です。確かに玄米には精白米を上回る栄養素が含まれることが一目瞭然で、大変優れた食品かのような印象を受けます。これが曲者、要注意です!いくら栄養価の高い食品であっても、消化吸収されなくては何の意味もありません。
玄米の主要栄養成分の吸収率は90%、それに対し白米のそれは98%にも及びます。総エネルギー量では玄米89.3%に対し白米は94.4%、窒素は玄米の72.7%に対して白米は79.6%あります。脂肪は、玄米74.1%に対し白米が94.7%です。
また玄米食ではカルシウムの吸収量が82mg/dayで、白米食の162mg/dayの約半分にしかなりません。ここから尿と共に排出されるてしまう量を差し引くと、16mg/dayのみが体内に残る玄米に対し、白米食では59mg/dayにもなります。
糞便中に排出されるカルシウム量は、玄米食で505mg/dayになり、白米食の375mgより遙かに多くが排出されてしまいます。
更に、マグネシウムに至っては、玄米食では-34mg/dayで、白米食の+48mg/dayと比較すると恐ろしい程の低さ(マイナス)です。つまり玄米食を続けると、恒常的なマグネシウム損失状態に陥る危険性が生じることになりかねません。
ただ、玄米は白米と比較しダントツな量の食物繊維を含み(上の表)、便秘の解消や余分なコレステロールや糖分排出を効果的に促し、生活習慣病の予防に役立ち、※大腸癌を効果的に予防すると言われていま。
※全米科学アカデミーの1982年の報告によると、「食物繊維が大腸癌を予防する疫学的な報告は一部を除きその有用性を認めておらず、有用性にを裏付ける決定的な証拠は発見できない。」としています。
つまり「数ある食物繊維の中で、どの繊維がどのように働き、どのような有害物質を吸着し無害化するかは、疫学的に全く特定できていない」と言うことです。
更に、玄米食において重要視されているのは、カルシウムやマグネシウムの吸収が著しく阻害されてしまう点だと言われています。いわゆる酵素阻害物質の存在です。
玄米食の孕む問題を科学的に指摘する研究は多数ありますが、逆に根拠のある証拠によって玄米食の有用性を証明した研究は皆無です。
これは大きな問題と思われます。信じられて来た事柄と実際は真逆だとしたら何とも恐ろしいことです。

玄米の残留農薬問題

注目されている残留農薬問題ですが、稲作には有機リン系とカルバメート系の殺虫剤と、有機塩素系の除草剤等の農薬があります。有機塩素系農薬は稲の茎の中間あたりまでしか吸い上げられず、直接の問題はありませんが、害虫駆除を目的とした殺虫剤は、直接稲に散布されるので話は異なります。
確かに除草剤と比較し分解しやすいとの指摘もありますが、収穫直前に散布された場合は、残留する可能性が非常に高いとも言われています。
下はやや古いデータですが、1988年に大阪大学理学部 上村振作氏 が、玄米の有機リン系農薬スミチオンの残留量を調査した結果です。ごく限られた地域を対象とした調査ではありますが、玄米食の残留農薬の危険を理解する一応の目安とはなる筈です。
米・米ぬか残留スミチオン(MEP)分析結果  単位はppm
不検出:0.0005ppm以下
有機農産物なら絶対無農薬!?
有機米は第三者機関で認証を受けているか否かを購入前に確認して下さい。認証を受けた有機農産物には、有機JASマークがついています。上は種蒔きや植付け前、2年以上に渡り原則として化学肥料や農薬を使用せず、たい肥などの有機肥料により作られた農産物や、その加工食品に付けられるマークです。
「原則として…」とはどういう意味ですかネ!
ただ、無農薬であっても、周辺農地の農薬散布状況により大きく左右されます。「米・米ぬか残留スミチオン(MEP)分析結果」でもお判り頂けるかと思いますが、無農薬栽培であっても残量農薬が皆無ということではありません。