SINCE 10 MAR 2008 | |||||||||
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三宅島のメジナ釣りでの外道「石鯛」 |
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愛用のうきで三宅島のサラシを釣る |
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【図-35】 左が上下に潰したもの 右が横に伸ばしたもの 【図-36】ドングリ型とシズク型の阿波ウキ |
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水は非常に粘性が高く、圧縮率の著しく低い流体です。ウキはその中で高い運動性能を維持し続けなければなりません。故に水槽実験では粘性に基づく流体摩擦を極力回避する為、験体表面を滑らかになるよう処理するが有効な手段となります。 三次元物体の形状は無限に存在します。しかし流体中を運動するウキに適する形状はさほど多く有りません。ましてや多くの制限事項をクリアできる形状は、自ずと限られてきます。ウキに適する形状は。少なくとも境界層の剥離を促す鋭角な面(線)を持たす、全てが滑らかな曲線で構成され、且つ細長い筒状の形状を避けねばなりません。本来はあらゆる形状を試すことが可能であれば、データ収集と言う側面から見れば面白いものがありますが、あまりウキに適さないと考えられる形状を試すには大した意味を持ちません。 そこで三次元物体の基本形状(鋭角な面を持たない曲線で構成された)の球体がその対象となります。この球体を潰したり、引き伸ばしたりして、変形させたものが、滑らかな曲線で構成される全ての三次元物体の原型となります。 私が疑問を持ち、流体力学的考察にのめり込ませたドングリ型とシズク型の阿波ウキは、この球体を引き伸ばした形状をしています。その姿が球体にかなり近いものであることは【図-36】を見ればお判り頂けると思います。 球体は全ての面が滑らかな曲線で構成される三次元物体で、同体積で最小の表面積を持ち、同表面積では最小の体積を持つと言う特徴があります。この特徴はウキの性能を考える上で、大変大きな意味を含んでいます。実験で使用する験体は全てこの球体を引き伸ばした延長線上にあります。筒状のものは水力学や流体力学の教科書通りの結果でしたので割愛させて頂きます。 |
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ウキの材料となるものは数多くありますが、単位体積あたりで最大の浮力を確保するには、アルキメデスの原理から、軽ければ軽いほど良いと言うことになります。また何処でも入手でき、加工が容易である必要もあります。そこで入手が比較的容易な「バルサ材」を使用することに決定しました。いよいよこの三次元物体の基本形状である球体から取り掛からねばなりません。 験体製作に必要なものは ①カッターナイフ(交換刃は多数) ②サンドペーパー(粗いものから細か~いものまで4種類程度) ③瞬間接着剤 ④ノギス ⑤ピアノ線(直径0.8mm) ⑥ナツメオモリ(中通し3号) ⑦負荷オモリ(各種) ⑧塗料(ニス/水性塗料) ⑨バルサ材 以上 |
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【図-37】 験体の断面 薄茶がバルサ、黄色がニス、赤が水性塗料を示します |
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製作した球形の験体は、直径35mm・28mm・27mmの3体です。材料は50mm角のバルサ材を丁寧に削り出し、ノギスを使いながら、サンドぺ^パーで微調整を加え作り出したものです。出来上がった験体の誤差は各験体とも最大で0.05mm以内(感嘆!)に収まっています。現実にはここまで精密にする必要は無いのですが、可能な限り誤差を少なくさせることにより、結果にこのことが反映される筈だと考えたからです。 前記のサイズは製作前から決まっていたのではなく、単に成功したものがその3体であったと言うだけのことです。しかしこれも面白いもので、幾つも幾つも作り続けて行くうちに、徐々にバルサ材の性質と製作のコツを覚え、自由に目的の験体を作り出すことが出きるようになりました。実験が終了する頃には験体1体に要する製作時間(仕上げの塗装を除く)は1時間を切るまでになっていました。 験体はニスを塗り、その上に水性塗料を塗り、仕上げに再度ニスを塗りました。下地のニスはバルサが特殊な気泡の多い材木なので、塗料が吸い込まれるのを防ぐ目的で使用します。これが硬化した後に細かいサンドペーパ-で表面を整え、水性塗料を塗ります。本来はここまでで充分ですが、更に塗料の硬化を待ち、サンドペーパーで表面を丁寧に磨きこみ、ニスを塗り完成です。そして最後に駄目押しで柔らかい布で表面を磨きます。これで験体表面は鏡のようにピカピカの状態になります。この時点で験体は0.05mm以内の誤差になります。 表面の塗装は、当初ラッカー系塗料を想定し、ウレタンで仕上げるつもりでしたが、所詮は験体なので、水槽実験にさえ耐える皮膜があれ良いとの判断で、最初から最後まで全て水性の塗料(刷毛が水洗いできるので大変便利です)で行ないました。 |
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【図-38】 直径35mmの験体と追加の負荷オモリ |
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完成した験体の下部(球体では上下左右が定かでは…)に直径0.8mmで伝長が90mmのピアノ線を正確に20mm埋め込み瞬間接着剤で固定します。事前に中通しオモリを装着し、ピアノ線の先端をフック状に加工して置くことは言うまでもありません。 験体にピアノ線の足を埋め込み、オモリを装着したのには、其れなりの意図があります。糸状のものでオモリを験体に直接吊るすと、瞬間負荷をかけた初動時に、ウキが揺れ不安定になることがあります。また、負荷オモリを追加するのにも、加工したフックが大変便利だからです。更に、オモリ内蔵となると同一条件で実験する際の験体の設計(浮力の中心とメタセンタ)が面倒になります。 ピアノ線でオモリが固定されているので、ウキとオモリが一体となって動作しますし、ある程度オモリを離すことで、オモリが発生する後部渦流の影響を極力小さくすることができます。同時に異なる形状の験体にも公平に関与させることが可能にもなります。 追加の負荷オモリは、0.5・1.0・1.5・2.0・2.5・3.0・4.0・5.0の8種類のアユ用丸型オモリを用意しました。このオモリの穴に爪楊枝を刺し、極小のフックをねじ込み瞬間接着剤で固定してあります。 |
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【図-39】 考案した瞬間負荷装置(打撃装置) |
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水槽実験に移る前に、残された重要な作業があります。それは験体の下部オモリと験体との浮力のバランスを調整することです。験体が浮揚した時、その頂点がほんの僅か露出(直径で約3mm程度)するように浮力を調整します。沈降実験では直径28mmの験体を使用しました。この験体では3.0号のオモリでは重過ぎ、験体は沈下してしまいます。そこで、少しずつオモリを削り目的の浮力に近づけます。浮力が大きすぎると、頭部の露出部分が多くなり、測定結果に誤差が生じます。この直径3mm程度の露出面積は、僅か1gでも過剰に負荷がかかればたちまち沈下してしまう浮力でしかありません。 水温は摂氏12℃±1.0℃に調整しました。これは温度上昇に伴い水の粘性抵抗が低下してしまう性質があるからです。実験は冬場を選び、別途氷を用意して水温の調整を行ないました。ハッキリ言って冬場の風呂場は恐ろしく寒いですヨ! 上の【図-39】は水槽実験に先立ち自作した瞬間負荷装置(装置と言えるかどうか…)です。原理は簡単で、ただ右側のハンマーを摘み上げ落とすだけです。当初は手で直接ハンマーに代わるものを験体に落とし、打撃を与えようかとも考えましたが、ハンマーの止まる位置が一定せず、験体を押す形になってしまうことがあります。この装置を利用することで、微妙な打撃位置の調整ができます。ハンマーの重量とシャフトの長さは、自由に調整(重さと長さの異なるものを別に用意しただけですが…)できるようになっています。上の打撃装置の他に、電磁石でハンマーのコントロールができるものも製作しましたが、防水が完璧ではなく、たまにビリビリ来るので止めました。 下の【図-40】はご覧の通りただの水道ホースです。このホースを図のように紐を着けアンカーで固定し、風呂桶内に乱流を発生させる工夫もしてみました。これは大変うまく行き、水道圧を変えることで面白いように乱流(レイノルズの理論を実践)の強さを変えることができます。コツはホースとアンカーをつなぐ紐に遊びを持たせ、ホースが水道圧で翻弄されるようにセットすることです。 水道圧が低いときは水面が一定方向にグルグルと流れ、強くすると水面が大騒ぎになり、不規則な流れと底からの急激な湧き上りがおきます。まるで磯で波が砕けた直後のようになります。 |
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【図-40】 乱流発生装置(ただの水道ホース?) |
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連続負荷実験は、流体中での験体の抵抗(沈降能力)の優劣を判断する為に行ないます。本来のウキに求められる条件とは異なりますが、充分に貴重なデータとなります。 この実験では、ギリリに浮力を調整した直径28mmの験体を使用しました。験体下部のフックに0.5~0.8号のオモリを負荷しての沈降状態を観察します。 ●結果:0.5号の負荷実験では験体は静かにゆっくりと沈降します。この号数を超えると、規則的に揺れながら沈降し、号数が増加するに従いこの揺れは酷くなり、全く安定しません。これはオモリの号数増加に伴い沈降速度が増し、境界層の剥離現象で生じた後部渦流の影響を強く受けるからに他なりません。 |
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この実験も沈降実験同様に、流体中での験体の抵抗(浮揚能力)の優劣を判断します。この実験は沈降実験に比べ、実際にウキに求められる重要な要件の一つと言えます。 実釣では投入後、餌は目的の水深までゆっくりと沈下します。その時ウキが完全に浮上していて初めてアタリが判断できます。実際にはウキが安定する前に食いついてくることもあります。そうなれば魚影がやたらに濃いか、大変な幸運に巡り合わせた(外道の場合も多々ありますが…)と言えます。こなればウキの性能など二の次でしょう。後は腕次第! この実験では沈降実験とは異なる35mmの験体を使用しました。これは28mmでは浮力が小さいことと、既に28mmの験体にはオモリが装着されていることにあります。35mmの験体は下部に一切オモリを装着していません。実験ではこの下部のフックにオモリを負荷し、その号数を変えながら行ないます。 ●結果;球体は上下左右の違いがないので、予想した通りの結果がでました。浮力を得られるギリギリまでオモリを負荷したものは、ゆっくりと静かに浮上します。負荷オモリの号数を小さくするに従い、徐々に規則的に揺れだし、負荷オモリなしでは激しく揺れ動きます。全く逆の様相を呈します。つまり、オモリの号数減少に伴い浮揚速度が増し、境界層の剥離現象で生じた渦流の影響を強く受けるからに他なりません。 |
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安定性と視認性を検証する実験では、【図-40】の乱流発生装置が活躍します。これは波浪中でのウキの安定性と視認性、ならびに不規則(実際にこの世に不規則なものはありませんが…)な渦の発生するサラシに於いての挙動も同時に検証できる、ウキ作りにとって重要な位置を占める実験と言えます。 ●結果:前の二つの実験から渦流の影響を強く受けることは検証できたので、凡その予想はできましたが、まさに予想通りの結果がでました。験体は流れが速くなると、まるで安定せず完全に流れに翻弄されます。一度沈下してしまうと暫くの間は浮上しないと言う現象が見られ、これはウキとしては致命的な欠点と言わざるを得ません。既存の球体ウキの浮力が大きい理由はここにある訳です。 |
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これは連続負荷実験とは異なり、ウキが実際に求められる、アタリに際しての鋭敏性や即応性を観察する重要な実験で、ここで得られたデータが、ウキの性能を判断する基礎となります。 ウキには、「風や波浪に対しての安定性や復元能力を重視する人もいれば、遠方からの視認性や前触れアタリへの即応性、豊かな表現力を望む人もいます。摂餌に際しては抵抗が少なく、食い込みが良いのは当然のこととして、更にまた振込みが容易で、糸絡みせず、竿に乗りやすく、潮にも乗りやすいことも重要視されます。」と書きましたが、この中の多くが瞬間負荷実験から検証できます。瞬間負荷をかける打撃装置【図-40】のハンマーは験体の頂点を叩き水面下10mmで停止します。 ●結果:ハンマーが頂点を叩くと、一瞬沈降し、その直後急ブレーキがかかったかのように、急激に沈降速度が鈍化します。暫く停止したかのように見え、その直後に非常に緩慢な速度で沈降して行きます。それはまるでスローモーション映像をみているかのようで、沈降限界深度もかなりあり、時間をかけて確実に沈降します。この特殊な運動は実験するまでは、まるで予想もしなかったことでした。 |
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球体状の験体は、負荷実験では予想外の面白い結果を見せましたが、その他の実験では全くウキとしては甚だ劣ると判断せざるを得ない結果でした。沈降実験でも、浮揚実験でも、等しく頭を振り渦流に翻弄される様が検証できました。つまりウキとしては不向きな形状で、同じ形状を持つ玉ウキは、その亜流を含め、全て運動性能が大変劣ると断定できます。 これらの一連の実験で検証できたのは、球体の運動性能は、流体力学上の成果(球体の抵抗係数)から予測し得たものと、全く同じ結果を得られると言うことです。水力学や流体力学で得られた成果を正しく理解することが、ウキの形状を研究する上で、如何に欠かせない考え方かと言うことが理解できるかと思います。 球体以外【図-42】の水槽実験も行ないましが、データを既に消失させています。結果は球体と同じで流体力学上の成果と異にするところはありませんでした。 |
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【図-41】 験体は大きくゆれながら沈降します 【図-42】 球体以外の験体 |
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Traditional Japanese colors |
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